WONDERLIZE INSIGHT
経営者と人事のための、採用・組織レター Vol.01
全員が賢くなると、
会社は弱くなる。
採用は、会社の未来を映す鏡である。
「現場からは、毎月のように声が上がってくるんです。
『もっと変化を起こせる人材を』『部門を引っ張れる人を採ってくれ』と。」
ある大手企業の人事部長が、打ち明けてくれたことがあります。
各部門からのオーダーは、積み上がる一方でした。だからこそ、優秀な人をたくさん採ってきた。学歴も、論理性も、実績も、申し分ない。現場の要望に、誠実に応えてきたつもりだった。
それなのに・・・、会社(部門)は、思ったほど変わらない。
「採っても、採っても、変化が起きないんです。これはもう、私の責任なんでしょうか」
人事のトップとして、その方は本気で悩んでいました。
最初は、私も一緒に首をひねりました。でも、いくつもの会社を見るうちに、思い当たったのです。これは事故ではなく・・・優秀さを突き詰めた会社が、わりと高い確率で踏む“地雷”であると気付きました。
社員数千人を抱え、業界では誰もが名を知る企業でした。その会社は数年をかけて、絵に描いたような“粒ぞろい”の組織になりました。大きな失敗はありません。むしろ、失敗が一つもない。そして同じだけ、大きな成功も、一つもなかったのです。
会議に何度か同席させてもらって、理由がわかった気がしました。誰かが新しい案を出すと、すかさず賢い指摘が返ってくる。「リスクがあります」「前例がありません」「再現性が見えません」。どれも、正しい。一つも間違っていない。
・・・でも、正論ばかりが整然と並ぶ会議室は、よく整備された駐車場に似ています。きれいだけれど、誰も、どこへも走り出さない。こうして、誰も新しいことを始めなくなる。
逆に、伸びている会社にお邪魔すると、少し違う声が聞こえます。会議のどこかで、誰かがぼそっと言うのです。「うまく言えないんですけど・・・なんか、面白くないですか?これ」 普通なら一蹴される、ふわっとした提案。ところが、その“よくわからない一言”から、次の柱になる出来事や施策が生まれていたりする。
長く見てきて、人にはどうやら二種類いるな・・・と感じています。正解を出す人と、問いを立てる人です。正解を出す人は、いまある事業(製品・施策・サービス・業務)を磨き上げる。問いを立てる人は、まだ無い事業(製品・施策・サービス・業務)を引き寄せる。
そして多くの会社は前者ばかりを集めます。理由は単純で、評価しやすいからです。問いを立てる人は、面接では扱いにくい。点数が、つけにくいのです。でも考えてみてください。正解を出すだけなら、いまや手元のAIが数秒でやってのける時代です。希少になったのは、もう一方となる“まだ誰も問うていないことを、問える人”のほうなのです。
経営学には昔から「優良企業ほど、破壊的な変化に弱い」という有名な指摘があります。理屈としては知っていましたが、現場に立つと、これが肌感覚として腑に落ちる。優秀な人ほど、リスクを正確に見積もれてしまう。だからこそ、賢い人が増えるほど、危ない橋を渡る人は、静かに減っていくのです。
これは、採用そのものにも同じような現象として発生します。「主体性のある人が欲しい」と、どの会社もおっしゃる。ところがいざ、自社に疑問をぶつけてくる学生が現れると、大抵は少し引いてしまう。「挑戦できる人が欲しい」と言いながら、挑戦的な人を、そっと見送ってしまう。「変化を起こす尖った人が欲しい」と思いながら、社風と合わないという判断をしてしまう。
そして数年後、同社が、こう言います。「最近の若手は、主体性がなくてね」 ・・・これはもう、人材の問題ではありません。鏡の前で「最近、鏡うつりが悪い」と嘆いているようなものです。
採用は、学生を選ぶ場のように見えて、会社自身が値踏みされている場でもあります。どんな人を選び、どんな人を見送るか。その一つひとつが積み重なって、組織の体質になる。そして体質は、戦略よりも強い力で、会社の未来を決めていきます。
もし今、「挑戦が足りない」「新しい発想が出てこない」と感じているのなら、見直すべきは、採用基準だけではないのかもしれません。もちろん、採用基準は非常に重要です。まさに見直すべき時代です。それと同時に、挑戦する人が、ちゃんと活躍できる場所になっているか。問いを立てる人が、煙たがられずにいられる組織か。ここを同時に問うべきで、今までと同じことを繰り返すことへの価値は、急激に低下していると考えます。
採用は、鏡です。
集まってくる人を見れば、その会社のこれからが、少しだけ先に見えてしまう。こわい話でもありますが・・・裏を返せば、採用を変えれば、未来も変えられる、ということでもあります。
FROM THE FIELD
現場で、何度も見てきたこと
この記事を通じて、何かに気付き、感じていただけることがあれば幸いです。
また、それを次のアクションへと変えていただければ、飛躍的な業務の向上・会社の変化・日本社会への影響力へと繋がっていかれることを信じております。

